アラビア文字で記されたモンゴル語は当時の発音を知る上でも貴重な資料である。また、この辞書には単語だけでなく数多くの文例を含む。ただし、語順はVOSであるため、アラビア語の文を逐語訳で記したものと見なされている。
<『ムカディマット・アル・アダブ』の研究状況>
モンゴル語学者ポッペは、ブハラのエミールの宮廷図書館(革命後、アヴィツェンナ図書館と改称)に保管されていた写本をもとに、『ムカディマット・アル・アダブ』の研究を行った。1938年には"Монгольский словарь Мукаддимат ал-Адаб, чч. I-II."という本に、モンゴル語とトルコ語の語彙を抜粋し、用いられているモンゴル語の文法をまとめた(この本にはイブン・ムハンナの語彙集も同時に収められている)。
近年では斎藤純男が研究を行っている。『ムカディマット・アル・アダブ』の全貌は永らく不明とされていたが、最近タシケントで写本が発見され、斎藤純男らのプロジェクトによって写真版が日本にもたらされた。中国内蒙古では、保朝魯がポッペ(1938)の辞書のモンゴル語部分だけを抜粋し、漢訳したものを出版している。
<『ムカディマット・アル・アダブ』の研究書・論文>
- "Монгольский словарь Мукаддимат ал-Адаб, чч. I-II.", Труды института востоковедения [АН СССР], XIV. М.-Л., 1938.
- N. Poppe, "Mongolian Dictionary Mukaddimat Al-Adab Pts. 1 - 3", Works of the Institute of Oriental Studies, XIV, Gregg International, 1968. (ロシア語)
- N. Poppe, "Eine viersprachige Zamaxsharii-Hhandschrift", Zeitschrift der Deutschen Morgenlaendischen Gesellschaft 101 (1951), 301-332. ○ N. Poppe, "Zur mittelmongolischen Kasuslehre: Eine syntaktische Untersuchung", Zeitschrift der Deutschen Morgenlaendischen Gesellschaft 103 (1953), 92-125. ○ 保朝魯, 『漢訳簡編-穆[ka]迪瑪特蒙古語詞典』, 内蒙古大学出版社, 2002. ○ 斎藤純男, "Монгольский словарь Мукаддимат ал адаб: a", 『東京学芸大学紀要 第2部門 人文科学』50, pp.151-173, 1999. ○ 斎藤純男, "Монгольский словарь Мукаддимат ал адаб: b", 『東京学芸大学紀要 第2部門 人文科学』52, pp.47-77, 2001. ○ 斎藤純男, 『中期モンゴル語の文字と音声』, 松香堂書店, 2003. ○ 菅野裕臣;斎藤純男, 「4言語対訳ムカッディマト・アル・アダブの写本調査」, 『日本モンゴル学会紀要』第35号, 2005. ○ 「『ムカディマット・アル・アダブ』において'alifとha'で音写されたモンゴル語の語末母音について」, 『アジアアフリカ言語文化研究 No.60』, 東京外国語大学AA研, 2000.
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